換気のよくない空間における小飛沫エアロゾルとSARS-CoV-2伝播

www.thelancet.com/respiratory Vol 8 July 2020

2021.11.22

G Aernout Somsen Small droplet aerosols in poorly ventilated spaces and SARS-CoV-2 transmission(全訳)

世界的に保健当局はSARS-CoV-2の市中感染を防止するための効果的な方法を探し求めている。伝播に関連する因子のデータはわずかだが、SARS-CoV-2の拡散は、大半が感染者からの呼吸性飛沫の伝播を介してであると考えられている。話したり咳したりしたときに産生された小飛沫(直径1μ~10μ)にはウイルス粒子が含まれていることが示されている。そのウイルス粒子はエアロゾル内で生きて感染性を3時間維持しているという。飛沫は空気(エアロゾル)を介して直接気道に入ることにによって、あるいは汚染した手を介して間接的に接触によって伝播される。伝播様式は、感染が上気道あるいは下気道から始まるかどうかに影響する。そしてそれは病気進行の重症度にも影響すると考えられている。ご存じのように、SARS-CoV-2の量-反応関係ははっきりしない、とりわけウイルスの空気伝播についてはそうである。しかしながら、換気の悪い空間で少しの濃度のウイルスは、低湿度と高温と結びついて、時間とともに感染性の量をもたらすかもしれない。

呼吸性飛沫の拡散と可能な防御方法をより理解するために、われわれは咳と会話による飛沫産生を、飛沫サイズの分布、移動距離と速度、空中浮遊時間を換気のレベルに関連付けて分析した。

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1回の咳や会話中の呼吸性飛沫のサイズ分布を決定するために、われわれはスプレー飛沫測定システム(Malvern Spraytec, Malvern, UK) を使ったレーザー屈折測定を行った。健康なボランティアからの1回の咳では、われわれは 飛沫の二つのタイプ、すなわち大飛沫(直径100-1000µm)と小飛沫(1-10µm)を見つけた。小飛沫のほうがはるかに優位であった。会話中は小飛沫だけが見つかった。大飛沫は咳に特異的に関連しているが、ここでわれわれは二つのサイズの飛沫は咳においても産生されることを観察した。


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次に、われわれは飛沫を追跡するSprayScan (Spraying Systems, Glendale Heights, IL, USA) レーザー・シートを用い、咳からの飛沫によるレーザー光の散乱を写真に撮ることによって、飛沫の速度とその軌跡を決定した。大飛沫は急速に地表に落下することが観察された。咳の始めでは飛沫の速度は2-7m/sの範囲だが、可視の大飛沫(典型的には直径500µm)は遠くに飛ばず、その軌跡は重力のために下に曲がり、1秒以内に急速に地表に落下する。この所見は、重力(F=mg:Fは力、mは質量、gは加速度)と空気抵抗(F=6πηRU:ηは空気の粘性、Rは飛沫の半径、Uは落下速度)のバランスによって説明される。そして、典型的な半径5µmの小飛沫は、160cmの高さ(すなわち、平均的な会話や咳の高さ)で産生されたとき、地表に落下するまで9分かかることも分かった。これらの小飛沫はSARS-CoV-2のエアロゾル伝播と関連するので、特別の関心を持たれている。われわれはまた鼻腔からくる飛沫についても検討した。そして正常な呼吸では 飛沫は検出されなかった(バックグランド・ノイズ・レベル(鼻呼吸に対して(2·3 [SD 1·5] 飛沫と2·6 [1·7] 飛沫)では)。くしゃみについては、ほとんどが非常に大きな飛沫であり、口腔・鼻腔由来であり、持続性がないことがも分かった。

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同じレーザー・シートを用いて、咳からの小飛沫がどれくらい長い時間空中を浮遊するか調べた。Medspray (Enschede, The Netherlands)からの特別に設計されたスプレー・ノズルを用いて、小飛沫の調整された量を空中に拡散させ、咳の効果を再生した。飛沫は平均直径5µmで、スプレー・ノズルから均一に拡散された。われわれは、飛沫によって引き起こされた照度を検出するアルゴリズムを用いて、実験室の中心に吊るした固定レーザーシートを通過する飛沫数を解析した。われわれはこの実験を3室で異なる換気レベル(換気なし、機械的換気のみ、入口のドアと小さな窓を開けて行った機械的換気)で繰り返した。最高に換気された部屋では、30秒後に飛沫数は半分になった。一方、換気がないと半分になるのに約5分かかった。咳・会話の平均的高さからの5µmの飛沫が地表に落ちるまで9分かかることを示す空気抵抗計算と矛盾しない。換  気の少ない部屋では、飛沫数が半分になるのに1.4分かかった。

われわれは健康なボランティアを調べただけで、COVID-19患者やウイルスを含むエアロゾル飛沫を直接調べてはないが、飛沫のサイズ分布と持続に関するわれわれのデータは、ウイルス伝播防止のためのフェイスマスクの使用の必要性と密接な関係がある。ここで研究された小飛沫のエアロゾルによる伝播は高性能フェイスマスクの使用によってのみ防ぐことができる。従来型のサージカルマスクは、ここで検討された小エアロゾル飛沫を吸気に対し30%防止できるだけである。呼気についてはその効果はもっとある。

加えて、ここでわれわれが見出したエアロゾルの長い浮遊時間は、スマートフォン・アプリを通じた近接追跡によってモニターされた個々人間の時間的・空間的接触データの信頼性にも影響する。これらの所見はスマホアプリの開発・推進において考慮される必要がある。

今回の研究は空間のより良い換気が実質的に呼吸性飛沫の空中浮遊時間を減少させることを示している。この所見は典型的に良くない換気の密集した空間(公共交通機関や老人ホームなど)は、防御的身体距離の確保にもかかわらずウイルスの伝播する場所として報告されてきた。このような換気の悪い空間では、小呼吸性飛沫の持続はSARS-CoV-2の拡散の原因となる。われわれの所見は公共空間の換気を改善することは、潜在的に感染性のエアロゾルを希釈し追い出すことを確認している。SARS-CoV-2の拡散を制圧するために、医療当局はできる限り換気の悪い公共空間を回避するよう勧告すべきであるとわれわれは思う。その意味するところもまた、咳によるエアロゾル化や医療処置、COVID-19患者との密な接触が一般的である病院現場に対して重要である。