サーベイランスの基礎知識

向野賢治

SUMMARY

 サーベイランスを実施するに当たっては、その方法と意義をよく理解し、その結果を臨床現場に持ち帰って、感染対策の改善に生かすことが重要である。むだな労力を費やさないために、感染定義をしっかり把握したうえで、ターゲットサーベイランスを実施するのが現在最もよい方法である。

KEY WORD

■流行曲線  ■感染率  ■ターゲットサーベイランス  ■パーセンタイル

1. サーベイランスの目的

 サーベイランスの目的は、感染症の発生状況を知り、現在の感染対策を改善していくことである。サーベイランスは必ず何らかのactionにつながるものであるし、さもなければやる意味がない。たとえば、エイズ患者のサーベイランスをやったとして、患者が増加傾向にあるとする。すると、現在のエイズ対策は不十分であるということになる。
 そこで、対策の変更が勧告され、対策は改善され、実行される。一定期間ののち、その効果を検証するため再度サーベイランスが実施され、その結果、患者数が減少したとすれば、その対策の変更は正しかったことになる。もし減少していないならば、再度対策を見直さなければならない。このように、サーベイランスと感染対策は相互に補完し合うものである(図1)。
 感染対策の改善につながらないサーベイランスは無意味であるし、サーベイランスによって有効性が評価されない(されたことのない)感染対策は意味がない。こうして、サーベイランスと感染対策は車の両輪にたとえられる。ここを理解することが、むだなサーベイランスをしないための基礎となる。

2. サーベイランスの基本的方法

 サーベイランスの基本的方法は2つある。1つは、流行曲線を描くこと。もう1つは、感染率を求めることである。

1. 流行曲線を描く
 流行曲線epidemic curveとは発生患者数を棒グラフにして、時系列で表したものである。これはヒストグラムとも呼ばれる1)(図2)。流行曲線は、感染症の突発的な流行の調査(Outbreak investigation)に特に有用である(食中毒、インフルエンザ、EKCなど)。
流行曲線から流行の二つのタイプを見出すことができる。一つはCommon source epidemics (ありふれた感染源による流行)とPropagated epidemics(伝播性流行)です。前者は、2次感染の少ない食中毒のような、一過性の感染症の場合である。一般に、対数正規分布型を示す。後者は、伝播性の強いインフルエンザのような、2次感染の多い持続する流行で見られる。こうして、流行曲線を描くことによって、感染症の感染力や潜伏期が分かり、さらに詳しく解析することで、感染源を推定することができる。

2. 感染率を求める
つぎに大事なことは、感染率、正確にいえば、感染症の発生率を計算することである。表1に、感染率の公式を示した。MRSAのような日常的な病院感染では、この作業が不可欠となる。Incidence(頻度)、これが感染症の発生率である。Incidenceはprevalence(有病率)とは異なる。Incidenceは一定期間(例えば、平成11年4月の1カ月間)における患者の発生を見るものであり、prevalenceはある時点(平成11年4月15日)における患者の発生を見ている。分子のoutcome(結果)、これは感染症の発生件数である。ここで注意してほしいのは、分子とは感染症infectionの件数であって、保菌状態colonizationをカウントするものではないということである。基本的にサベイランスの対象はinfectionであって、colonizationではない。なぜならcolonizationそれ自体には実害がないからである。分母のexposure(曝露)とは、患者が曝されている条件と言ってよい。この分母はいろいろ変化する。たとえば、4月の入院患者数であったり、5月の手術を受けた患者であったり、あるいは血液透析を受けた年間患者数であったりする。さらに、感染率を比較し相対危険率を求めて、感染対策の問題点を指摘することもできる。
 いずれにしても、感染率を減少させ、低いレベルに維持するということが(感染率をゼロにはできないので)、感染対策の目標である。

表1 感染症の発生率の公式

 

                 Outcome
Incidence=----------------------------------
                 Exposure

 

3.病院感染症の定義

 サーベイランスの実施にあたっては、病院感染症の定義を確定させることが重要である2)。(表2)ここが曖昧だと、サーベイランスのデータに狂いが生じてくる。信頼性のないデータとなり、サーベイランス自体が無意味なものになりかねない。非常に重要な出発点である。さらにCDC の各種疾患の定義3)を使用されることを勧める。他施設との比較のために、この疾患定義を遵守することが必要である。

表2 病院感染症の定義

1.入院時に、その感染病原体を患者が持っておらず、
  ふつう入院後48〜72時間以上*あるいは退院後10日以内**に起きた感染症
2.手技・処置に関連した感染症***
  ・術後感染症は、術後30日以内
  ・装具・異物の植え込みの場合は、1年以内

*Norwalk virusによる胃腸炎では潜伏期はやや短い。
**A型肝炎ではやや長い。
***潜伏期は48〜72時間以内でもよい。

4.ターゲットサベイランスTargeted Surveillance

 欧米では、すべての病院感染症を調査するという全病院的サーベイランスhospital-wide surveillanceにかわって、ターゲットサーベイランスtargeted surveillanceが主流になってきた2)。これは、分母となる患者集団と分子となる疾患の種類を限定し、それをターゲットとしてサーベイランスを行う方法である(表3)。
 また、感染率の計算方法も独特なものがある。手術部位感染については表4に示した。
 カテーテルなどの器具挿入に伴う感染症については、その器具を装着していたのべ日数が分母になる。たとえば、ある病棟で血管カテーテルを挿入している患者が2人いて、1人は10日間挿入していて、感染はなく、もう1人が7日目に感染を起こしたとしたら、分子は1、分母は10+7=17である。感染率は1/17x1000=58.5となる。
 感染率の基準となるデータはNNIS report4)を参考にしていただきたい。このとき、パーセンタイル(百分位)という単位で表示される。(表4参照)

表3 ターゲットサベイランスの対象となる代表的疾患

 1. 手術部位感染(Surgical Site Infection)
 2. 血管カテーテル挿入患者における菌血症
 3. 膀胱留置カテーテル挿入患者における尿路感染症
 4. レスピレーター患者における肺炎

表4 パーセンタイル(百分位)とは

たとえば、病院がAからJまで10施設あり、各施設のSSIの感染率を下記のように低い
順に並べたとき、50 percentile(50百分位数)は2.2である。これはとは50%の病院は
2.2以下の感染率であるということを意味する。抗生剤のMICの累積百分率に似ている。

順位

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

病院

D

A

F

C

G

J

I

E

H

B

感染率

0.8

0.9

1.5

1.8

2.2

2.6

3.1

3.4

4.3

5.2

引用・参考文献
1. Checko PJ, Ourbreak investigation. Chapter 4 , APIC Infection Control and Applied Epidemiology, Mosby. 1996.
2. Pottinger JM, Basic of surveillance. Infect Control Hosp Epidemiol 1997;18:513-527
3. 小林寛伊訳、サーベイランスのためのCDCガイドライン、メディカ出版、1998
4. NNISのホームページ: http://www.cdc.gov/ncidod/hip/Surveill/nnis.htm