質問 院内感染予防のため、手術室勤務者などを対象に鼻腔や手掌・手指のMRSA等の保菌検査をすることがあるが、この検査はどの程度必要かご教示ください。また、必要なら、どのような病棟において実施すべきか。
回答 保菌検査は、アウトブレイク(集団発生)に対応して実施するのが原則である。MRSA感染症の流行のない臨床区域、あるいはMRSA感染症のリスクの低い病棟(一般病棟、療養型施設など)において、職員・患者の保菌検査を実施する意義はほとんどない。一時期MRSA感染症が多発した病棟であっても、現在アウトブレイクが終息しているならば、積極的に保菌検査1)をする意義は少ない。感染対策についても、基本的感染防止戦略である標準予防策で十分である。
しかし、ICUなどのMRSA感染症のリスクの高い臨床区域では、入院患者の保菌率と感染症患者の発生率に相関があることが指摘されており、保菌検査は一定の意義を持つ2)。保菌率の上昇している場合、先手を打って感染対策を実行する、すなわち、標準予防策に加えて、接触予防策1)を厳重に実行することが望まれる(たとえば、保菌者に対する除菌療法や個室隔離の実施など)。
また、感染防止の努力にもかかわらず、MRSA感染症の発生が持続する区域も存在する(たとえば、救急救命センターやNICU)。本来、MRSA感染症は手洗いやバリアプレコーション(手袋、ガウン、マスク)の組み合わせによって伝播阻止可能であるが、これらの区域では、こうした感染対策に不十分な点があることが想定される。こうした危機的な状況に陥っている区域では、ルーチンに(定期的に)職員や入院患者の保菌検査を実施して、より厳重な対策を適応してゆく。こうした保菌検査は「監視培養」と呼ばれる。さらに、保菌検査に薬剤感受性パターンや遺伝子解析・クラスター分析・デンドログラム(樹状図)解析を組み合わせて、菌株の分布をより詳細に調べることができる3)。こうした努力によって特定の菌株の伝播経路を追跡し、潜在的な感染源を解明することできる。
同様に、ある外科系の診療科において、手術部位感染が多発したならば、手術を担当する医師のみならず、手術室の医療従事者の保菌検査をする。またMRSA感染症のリスクの高い消化器外科などにおいて、術前検査として患者のMRSA保菌検査を実施することは意義のないことではない。MRSA感染リスクの高い食道外科などで、保菌者に対しバクトロバンによる除菌療法を実施することによって、感染リスクを減らした報告もある4)。
では、何を持って多発、アウトブレイクとみなすのか。単なる印象ではなく、感染症発生のデータに依拠して感染対策を始めるべきである。
このためには、日頃から院内感染サーベイランスを実施しておき、NNIS (National Nosocomial Infections
Surveillance) Systemのデータなどによって自分の施設の感染率が米国などの同じ施設と比較してどの程度のレベルかを把握する必要がある。自施設の感染率が75パーセンタイルを越えているならば、患者・職員の保菌検査等を実施するのがよい5)。
もう一つには、統計学的品質管理(SQC)を使う方法がある6)。MRSA感染症発生件数あるいはMRSAの検出数を、連続変量として管理図(control chart)を作成し、データが3×標準偏差を越えたときを、危険信号とみなす。危険信号が出たら、感染対策を強化すると同時に、保菌検査を実施する。管理図は表計算ソフトのエクセルを使って簡単に作成することができる7)。(福岡和仁会病院 向野賢治)
参考文献
1)大久保憲訳、MRSAとVREの院内伝播防止のためのSHEAガイドライン、メディカ出版、2004.
2)向野賢治、改訂された標準予防策、インフェクションコントロール、2004;13:520-522.
3)Takeda S, Yasunaka K, Kono K,et.al Methicillin-resistant Staphylococcus
aureus (MRSA) isolated at Fukuoka University
Hospital and hospitals and clinics in the Fukuoka city area.Int
J Antimicrob Agents. 2000;
4)Marjolein FQ, et al. Cost-effectiveness of perioperative mupirocin nasal ointment in cardiothoracic surgery. Infect Control Hosp Epidemiol 1996; 17:786-792.
5)CDC, NNIS Report, data summary from January 1992 through June 2003,
AJIC, 2003;31(8):481-498.
6)Benneyan JC, Statistical quality control methods in infection control and hospital epidemiology, part I:introduction and basic theory, Infect Control Hosp epidemiol 1998;19:194-214.
7)内田浩、すぐわかるEXCELによる品質管理、東京図書、1998.