日本感染症学会提言2012
「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」

9.流行拡大時の職員への予防投与の考え方

ここまでは、入所者、入院患者への予防投与を中心に考えてきました。

それでは、院内で流行が拡大した時、職員への予防投与はどう考えればよいので しょうか?

職員の多くが毎年、インフルエンザワクチンを接種しているから予防は万全であり、抗インフルエンザ薬の予防投与は必要がない、という意見もあり ます。

まず、ワクチン接種の意義とその効果を考えてみましょう。

高齢者施設での職員のワクチン接種の重要な目的は、職員によるインフルエンザの施設内への持ち込みを防止することにあります。

インフルエンザ施設内流行 の原因の多くは、職員による持ち込みと考えられるからです。

抗インフルエンザ薬が普及する以前、インフルエンザの大規模な施設内流行が起きた重症心身障害 者施設からは、A香港型とB型の院内流行が連続して発生し、いずれの流行においても、入所者間でインフルエンザ流行が発生する前に、職員間の流行が先行し たことが報告されています15)

そうしたことを防ぐためにシーズン前の職員へのワクチン接種が行われているわけですが、先述のよ うに、ワクチン接種で感染と発病を100%は抑えられません。

特に、抗原変異が予測されるようなシーズンや現実に抗原変異が確認されたシーズンにはワクチ ンの効果が低下するので、施設内へインフルエンザウイルスが持ち込まれる機会も高くなります。

施設内での流行伝播に、職員が関与していると考えられる場 合、特に職員の間でインフルエンザ発症が続く場合は、職員も入所者と同時に、オセルタミビルやザナミビルの予防投与が必要です。投与量や投与期間などは、 先述の患者や入所者の場合と同様に考えます。

病院の職員、主に医師と看護師へのワクチン接種は、発症後の重症化を防止するためではなく、インフルエンザの院内への持ち込みを防止することと共に、外 来や入院のインフルエンザ患者からの感染・発症を防止することが目的となります。

しかし、現実には、ワクチンを接種した医師、看護師等、医療関係者の相当 数がインフルエンザ流行期に発症しています。

病院の職員は本来健康ですから、ワクチン接種は必須ですが、予防投与は原則として必要ではなく、発症した場合 の早期治療開始と十分な家庭での療養を心がけましょう。

しかしながら、抗原変異が予測されるようなシーズンや、現実に抗原変異が確認されたシーズンにはワ クチンの効果が低下するので、病院へインフルエンザウイルスが持ち込まれる機会も高くなり、患者から医師、看護師が感染する可能性も高くなります。

そのよ うな場合は、患者だけではなく、医師、看護師もオセルタミビルやザナミビルの予防投与が必要となる場合もあります

普段からウイルスの抗原変異の有無に関 する情報に留意しましょう、なお、投与量や投与期間などは、先述の患者の場合と同様に考えます。