カテーテル感染防止の最新知見

束邦大学第三外科教授炭山嘉伸

 

I. カテーテル感染の現状

 

近年、中心静脈カテーテル、IVHカテーテル、動脈カテーテル、

末梢血管カテーテル、あるいは新生児における臍カテーテルなど

の血管内カテーテル類が臨床上多用されるようになってきました。

これに伴い、カテーテルが原因で起こる感染症である血管内留置

カテーテル感染関連血流感染が注目されています。なぜなら、重

症のカテーテル感染(カテーテル敗血症)は、患者のQOLを落とす

のみならず生命にかかわる大問題となるからです。また、院内感

染対策上も極めて重要な問題で、カテーテル留置に伴う合併症の

中でも、特に医師の治療上、また看護上も厳重な注意を要します。

カテーテル挿入、留置の手技は、皮膚のbarrierを突き抜けて直接

血管と外界との連絡をつけることであり、管理上の不備は、病原

体の血流への直接の侵入を許すことを意味します。

 

U. 発症メカニズム

 

感染経路として次の2つが挙げられます。1つは、カテーテル挿

入部の皮膚常在菌がカテーテルの外壁を伝って侵入するパターン

です。もう一つは、輸液中で増殖した菌や、三方活栓などの連結

部から侵入した菌が管腔内を通って遊走してくるパターンです。

カテーテルは生体にとって異物であり、細菌は異物の表面に付着

するという能カを持っています。この際、細菌が産生する菌体外

多糖類やフィブリン、血清タンパク、血栓などの生体産生物質か

らバイオフィルムが形成され、カテーテル表面に菌が定着します。

さらにそこで特有の細菌叢を形成し、菌の増殖及び血中への持続

的な排菌が起こります。なお、他の部位で菌血症が起こった場合

の細菌がカテーテルに付着する場台もあります。

 

V. チェックポイント

カテーテル感染の要注意患者さんは、まず、いわゆる

compromised hostと呼ばれる患者さんが該当します。すなわ

ち、侵襲の大きい手術の術後であるとか、高齢者や新生児、担癌

状態、糖尿病、心疾患、月刊章害、腎障害などの基礎疾患合併症例、

そして抗がん剤、ステロイド、免疫抑制剤が投与されている患者

さんなどがそうです。血管にカテーテルが留置されるような場合

というのは、大概手術に長時間を要したり、出血量が多かったり

と、侵襲の大きい手術の術後であることが多いと言えます。よっ

て、このような術式の症例はすべてカテーテル敗血症のリスクが

高いと考えて間違いはないでしょう。また、生体にとって異物で

あるカテーテル類が長期に、あるいは多数留置された患者さん、

そして、大腿静脈など不潔になりやすい部位に留置された患者さ

んも感染のリスクは高く要注意です。さらに、抗生剤が長期にわ

たって投与されていたケースでは、菌交代症としてカテーテル敗

血症が発症するリスクが高いので、同様に要注意と言えます。

では、カテーテル感染の早期発見のための観察ポイントはどの

ようなものがあるでしょうか。病原微生物がカテーテルの外壁を

伝って移動するパターンの感染経路の場合、感染は比較的短期間

の留置で起こり、主に挿入部の発赤や化膿といった炎症所見で発

見可能です。しかし、管腔を通して遊走し、カテーテル表面にバ

イオフィルムを形成して定着するパターンでは、8日間以上の長

期の留置の場台に起こることが多く、また、体外から観察するこ

とはできません。

そこで、敗血症の発症をいち早く発見することにかかっていま

す。具体的には、カテーテルが何日も留置された患者さんで、腹

腔内感染や肺炎など、他に原因がなく、高熱を認め、特に1日の

うちで高熱と平熱が交互に見られる、いわゆる弛張熱を見た場合

は、まずカテーテル敗血症を疑うべきです。

 

W.予防

 

皆さん自身が、戦国時代の一国一城の主になったと想像してみ

てください。城は敵から堀で守られています。今、大量の食物・

物質を城内に搬入しなくてはならなくなり、堀に新たに太い橋を

かけることになりました。堀の外と本丸とをダイレクトにつなぐ

橋をかけるとき、'皆さんならどのようなことを考えますか。多く

の敵がうようよいる場所にあえて橋をかける人はいないと思いま

す。できればそのような場所の敵は一掃した後がよさそうです。

また、敵は目立つ格好をして、のぼりを立てて押し寄せてくるこ

とはありません。むしろ忍者のように橋の裏の陰などにへばりつ

いて、すきをねらって密かに忍び込もうとするものです。橋をか

けたら、くせ者が入り込まないかどうか常に監視しなければなり

ませんし、入り込ませない工夫も必要です。さらには、そのよう

な橋は、目的が達成されれば直ちに撤去したほうが安全です。皮

膚のbarrierを突き抜けて、直接大血管と外界との連絡をつけるカ

テーテルというのは、大量の栄養物資を運ぶための橋のようなも

のです。カテーテル敗血症は、いったん発症してしまうと重篤に

なりやすく、時には治療に難渋することもあり、予防がすべてと

言っても過言ではありません。

米国のCDCからは既に血管内留置カテーテル感染予防のための

ガイドラインが出てます。CDCのガイドラインは、エビデンスレ

ベル及び実用性を考慮して決定されたrecommendation(勧告、

推奨度)が明確に捉示されているという点で優れています。その中

で特に挿入時の注意点としては、高度無菌barrier precaution

が強く勧められています。高度無菌barrier precautionという

のは、十分広い範囲の消毒を行って、滅菌手袋をはめることはも

ちろん、カウン、マスクをつけ、患者さんの体全体を覆うような

大きな滅菌覆い布をかけて、徹底的な無菌操作を行うことです。

手術や動脈造影検査の際、ガウンやマスクをせずに白衣のままで

行うという人はいないはずです。しかし、大血管に長期に留置し

なければならないカテーテル挿入も、同じぐらい神経質になるべ

きなのに、現実には、このあたりが無頓着になっています。

また、留置後の皮膚刺入部からの汚染防止のためには、カテー

テル挿入部を感染創からできるだけ離したり、ドレープ類で確実

に保護したりすることが重要です。また、週に一、二回、挿入部

の消毒とドレッシング交換を行います。ドレッシングは、濡れた

り汚れたりしていたら直ちに交換しなくてはいけません。なお、

挿入部位への抗菌剤軟膏の適応の是非については現在まだ結論が

出ていません。

次に、輸液剤の汚染防止も極めて重要です。高カロリ一輸液の

場合など、調剤の無菌的操作を厳重に行います。ラインの連結部

からの汚染防止にも努め、静注ラインセットは72時間ことに交換

します。カテーテルの処置全般に当たっては、手洗いや手指消毒、

手袋着用を重視した交差感染対策、いわゆるstandard precaution

を遵守します。

さらに、不必要となった三方活栓は直ちに除去し、不必要なカ

テーテルは早期に抜去されるべきで、もしカテーテル関連の感染

症発症が疑われれば、カテーテルは直ちに抜去されなければなり

ません。抜去する際には、カテーテルより採血した血液とカテー

テル先端を細菌培養検体として捉出し、原因菌を検索します。も

っとも、原因菌が確定するのには数日を要するのが通常なので、

敗血症の治療は、培養結果を待たずに原因菌を予測して直ちに施

行されるべきです。長期間抗生剤を投与されていた症例では、

MRSAのような多剤耐性菌やカンシタなどの真菌が原因菌として

多く見られます。

ここで、カテーテル感染は抗菌薬投与によって予防できるので

はないかと考える方もいるでしょう。抗菌薬は、一般的に感染症

の治療目的で開発され、使われていますが、その予防目的にも利

用されてきた経緯があります。例えば、感染症の治療に用いられ

てきた抗菌剤を、我々外科医は手術後の感染予防目的でもroutine

に投与します。カテーテル挿入という、少なからず生体に侵襲の

加わる処置を一種の手術と拡大解釈するならば、術後感染予防と

同じ発想でカテーテル感染予防にも抗菌薬が使用され得ます。す

なわち、静脈壁の血栓やカテーテル留置に伴い析出したフィブリ

ンでのカテーテル内外から侵入した病原菌の定着増殖を、抗菌薬

にて阻止することにより感染防止ができるであろうという理論が

成り立つわけです。

CDCガイドラインでは、成人で、高度のbarrier precaution

を完全に励行しているにもかかわらず、カテーテル感染が依然と

して高い症例、カテーテル感染の八イリスク症例、例えば完全静

脈栄養を受けている患者さん、好中球減少症の患者さん、またICU

に収容されている患者さんで、しかもカテーテルが4日以上留置

されることが予測される患者さんは、抗菌物質をしみ込ませた

CVCの適応としましたが、小児については依然として未解決問題

としています。

しかしながら、抗菌薬予防投与がカテーテル感染の発生頻度を

減少させることは証明されておらず、いまだ結論を見ていません。

このように、抗菌物質をしみ込ませたカテーテルの臨床分野にお

ける有用性は評価されていますが、クロルヘキシジンに対するア

ナフィラキシーショック、あるいは抗菌薬の耐性誘導の問題など、

今後もさらなる検討が必要と考えられます。抗菌薬、抗菌物質の

いずれも、挿入時の感染管理の不備を伴うものではないはずです。

抗菌薬の乱用は、MRSA,VREなど、高度耐性菌の助長につなが

ります。よって、抗菌薬だけで何とか片づけてやろうという発想

はやめるべきであり、また、抗菌物質を過信してはいけません。

そのような意味で、カテーテル感染の予防対策については、挿入

時の高度無菌barrier precaution、あるいは挿入部の消毒、ド

レッシング固定法などといったカテーテル管理に関する基本を押

さえることが重要です。

標準的な感染防御が行われているときに、カテーテル感染を減

少させるために抗菌薬の予防投与がさらに効果をもたらすかどう

かを評価するためには、さらに研究が必要です。CDCガイドライ

ンでは、カテーテルの細菌定着、または血流感染を防止する方法

として、血管内カテーテルの挿入前、または使用中に、routine

に抗菌薬を投与しないことともされています。

いずれにしても、このようにカテーテル感染症は、術後敗血症の

原因として常に考慮しなければならない感染症の1つであります。

 

V. 治療法

 

次に、カテーテル感染症を疑ったり、あるいはカテーテル感染

症の診断を下したときの治療法について述べます。

カテーテル感染症を疑ったり、創感染や腹腔内臆瘍の所見がな

いにもかかわらず、発熱、白血球増多など感染症状の発現・持続

を認めるなら、血管系に挿入されているすべてのカテーテルや医

device類の検証の上で、早期にこれをまず抜去してください。

ところが、現実には血管確保の困難さから、気軽に抜去・入れ

かえに踏み切れない事情があります。医療費の関係上、米国でそ

の傾向が強く、重症感染症に移行する機会が±曽加しているものと

考えられますが、しかし本邦では、同じ菌血症でもカテーテル由

来の感染症の場舎、比較的重症感が低く、有効な手だてが後手に

回る嫌いがありますが、カテーテル感染は、原因となっているカ

テーテルの抜去が自然に改善することも珍しくないので、必ず1

回抜いてください。一方、発熱からCVCカテーテル抜去までの時

間が72時間を超えると、最高体温が39度以上で、白血球数が1万

以上となったような場合は、重症化の率が非常に高くなります。

よって、カテーテル抜去が先決であり、抗菌薬投与はその補助で

あるべきです。

もしカテーテルの抜去後も炎症所見が遷延する場合は、血液培

養、カテーテル培養結果、あるいは真菌症の血清学的補助診断や

PCR法による診断に基づき、適切な治療を行います。化学療法の

ターゲットとされるカテーテル感染の原因菌としては、分離頻度

が高いのはMRSAを含む黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などの

グラム陽性菌、緑膿菌、セラチアなどのグラム陰性菌、そしてカ

ンジダ属です。

具体的に治療薬としては、ブドウ糖非発酉孝グラム陰'佳桿菌を考

慮して、カルバペネム系抗菌薬が挙げられますが、しかし、もし

既にそのような抗菌薬が投与されていれば、MRSA感染症を想定

して、バンコマイシンなどを使っていただければいいと思います。

投与期間に関しては、この抗菌薬は解熱後23日でよいとされて

いますが、合併症を認める場舎は、12週間、あるいはそれ以上

の投与を要することがあります。

(200444日放送分)

 

Medical cornerVol.115No.23 20049月号

(本誌は、ラジオNIKKEI・明菓アワーを収録したものです)