fomiteによるCOVID-19伝播の誇張されたリスク

www.thelancet.com/infection Vol 20 August 2020

2021.10.31

Emanuel Goldman Exaggerated risk of transmission of COVID-19 by fomites(全訳)

fomite(無生物の環境表面・物)によるSARS-CoV-2伝播の臨床的に著明なリスクは、実生活の状況とはほとんど類似してない研究を基にして、当然のことと思われてきた。

環境表面におけるSARS-CoV-2の最も長い生存期間(6日)は、非常に大きな初期ウイルス価サンプル(107感染性ウイルス粒子)を、検査される表面に置くことによって実施された。生存期間(4日)とするもう一つ別の研究は、同じような大きなサンプル(106感染性ウイルス粒子)を環境表面においてなされた。van Doremalenらは、SARS-CoV-2の生存期間は環境表面で最大2日、実験室で発生させたエアロゾル内で3日と報告した。しかしやはり大きなウイルス量であった(エアロゾルで105~107感染性ウイルス粒子、環境表面で104感染性ウイルス粒子)。また別の研究は、実質的に大量と考えられる、細胞溶解物cell lysate中のウイルス負荷量(103プラック形成因子pfu)を環境表面において、ヒトコロナウイルス229Eの長い生存期間(5日)を報告した。しかしながら、精製あるいは半精製のウイルスよりもcell lysateを用いたほうが、初期ウイルスの増殖を可能にする、あるいはサンプルを乾燥から守ることができる。

これらの研究は実生活の状況に近い想定とはなっていない。わたしは患者からのエアロゾル飛沫のウイルス量の測定結果を持っていないが、エアロゾル中のインフルエンザRNAの量は測定した。それはエアロゾル中10-100ウイルス粒子に匹敵する濃度であり、これよりももっと少ない感染性インフルエンザ粒子がプラックアッセイで増殖可能である。一方、ある研究はヒトコロナウイルス229Eはたった3~6時間の生存期間であった(試験された環境表面にもよるが)と報告した。また、ヒトコロナウイルスOC43は、アルミニウム、滅菌ラテックス外科手袋、滅菌スポンジなどの様々な表面で乾燥させた後には、生存時間は1時間だった。患者に汚染された環境表面で、実際の状況に似せて行った研究では、環境表面からは生きたSARS-CoV-2は検出されなかった。

2020年の文献的検討には、わたしがここに引用した研究はほとんどほとんど入っているが、新しい研究は追加されていない。わたしの見るところ、これまでの研究発表を批判的には評価していない。わたしはこれらの研究結果と議論しているのではなく、その実生活への適応性を議論している。たとえば、107、106のサンプルを使った実験や、環境表面の小さな範囲に104の感染性ウイルス粒子を置いた実験では、これらの実際の状況でのウイルス粒子の濃度よりもずっ高く、実際に環境表面に付着するウイルス量は数乗低い。したがって、実際の状況はDowellらの研究「fomiteには生きたウイルスはいない」でより明確に表されている。

わたしの意見では、無生物表面からの伝播の機会は非常に小さい。環境表面に感染者が咳やくしゃみをし、咳やくしゃみの直後(1~2時間以内)に他の人が表面に触れる例だけであろう。わたしは警告サイドに立った過ちには同意しない。これはデータによる裏付けなしに極端に走る。定期的に環境表面を消毒したり、手袋を使用することは理に適っている(特に病院では)が、病院以外の場所で、数時間にわたって感染者が接触していないfomiteに重大な伝播リスクがあるとわたしは思わない。逆効果となる過剰な行為を抑制するために、より偏りのない見方考え方が必要である。