呼吸器ウイルスの空気伝播(要約)

airborne trasmission

Science 373, 981 (2021) 27 August 2021

2021.11.23

Chia C. Wang Airborne transmission of respiratory viruses(要約)

背景:感染した個人の咳やくしゃみで産生された飛沫への曝露、あるいは飛沫で汚染された表面(fomite)への接触は、呼吸器病原体の優位な伝播形式であると広く認識されてきた。空気伝播は感染性エアロゾルあるいは5μmより小さい“飛沫核”の吸入と、主に感染者から1~2m離れた距離を含むものと伝統的に定義づけられている。そしてそんな伝播は“稀な”病気のみに関連していると考えられてきた。しかしながら、多くの呼吸器ウイルス(SARS-CoV, MERS-CoV, インフルエンザウイルス、ヒトライノウイルス、RSウイルス)の空気伝播を支持する、しっかりとしたエビデンスがある。飛沫、fomite、空気伝播への伝統的な見方の限界はCOVID-19パンデミックの間に明らかになった。SARS-CoV-2の飛沫、fomite伝播だけでは、COVID-19パンデミックの間に観察されたスーパースプレッド・イベントとインドアとアウトドア環境の間の伝播の差の主要因になることはできない。COVID-19がどのようにして伝播するか、パンデミックを制御するにはどんな介入が必要なのかについての論争は、呼吸器ウイルスの空気伝播経路をより良く理解することが、極めて重要なニーズであることが明らかになってきた。そしてそれは、呼吸器感染症の伝播を軽減する、より良い知識に基づいた戦略を可能にするであろう。

進歩:呼吸性飛沫とエアロゾルは様々な呼気活動によって生成される。エアロゾル測定技術における進歩(空気力学的およびスキャニング移動粒子サイジングのような)は、呼気性エアロゾルの大多数は5µmより小さく、ほとんどの呼吸活動では大きな分画は1µm以下であることが示してきた。呼吸、会話、咳嗽時に産生されたものを含む。呼気性エアロゾルは、気道の異なった生成部位と産生メカニズムに関連した、多数サイズ様式で起こる。エアロゾルと飛沫を区別するために、歴史的に5µmが用いられてきたが、エアロゾルと飛沫の間のサイズ区分は100µmであるべきである。そしてそれは、1.5mの高さから5秒以上の間、風のない空中を漂うことができる最大の粒サイズを表している。典型的には排出者から1~2mの距離に達し(エアロゾルを運ぶ気流の速度に依存する)、吸入される。感染者によって産生されたエアロゾルは感染性ウイルスを含んでいるが、研究によればウイルスは小飛沫(<5µm)に濃縮されている。ウイルスを含むエアロゾルの移動は、エアロゾル自身の物理化学的性質と環境因子(気温、相対湿度、紫外線照射、気流、換気)に影響される。一旦吸入されると、ウイルスを含むエアロゾルは、気道の異なる部位に沈着する。より大きな飛沫は上気道に沈着する傾向にある。しかしながら、より小さな飛沫はそこ(上気道)にも沈着するが、肺の肺胞領域まで深く侵入することができる。伝播に対する換気の強力な効果、インドアとアウトドア伝播のはっきりとした差、文書で十分に立証された長距離伝播、マスクやゴーグルの使用にもかかわらず観察されたSARS-CoV-2の伝播、SARS-CoV-2のインドア・スーパースプレッド・イベントの高い頻度、動物実験、気流シミュレーションは、空気伝播の強力で疑う余地のないエビデンス提供している。SARS-CoV-2のfomite伝播はかなり効率が低いこと、そして飛沫は会話時に互いが0.2m以内の時のみ優位であることがわかってきた。エアロゾルと飛沫はどちらも感染者の呼気活動中に発生するのだが、飛沫は数秒以内に地表または表面にすぐに落下し、飛沫よりも濃縮されたエアロゾルを残したままにする。空気感染経路は、これまで飛沫感染とされてきた他の呼吸器ウイルス伝播の原因となっているようだ。WHOとCDCは2021年に、ウイルスを含むエアロゾルの吸入が、短・長距離ともCOVID-19を拡散する主要な伝播経路であることを公式に認めた。

展望:病原体の空気伝播は全くと言っていいほどに正しく評価されてこなかった。それは大きくはエアロゾルの空中での振る舞いへの理解が十分でなかったからであり、少なくとも一部は裏付けに乏しい観察による誤った原因説のためである。飛沫・fomite伝播のエビデンスがないことと、多くの呼吸器ウイルスがエアロゾルによる伝播であることのエビデンスが増えていることを考慮すると、われわれはこれまで考えられていた以上に空気伝播が非常に優位なものであることを認識しなければならない。われわれがSARS-CoV-2感染症で学んだことを前提に、すべての呼吸器感染症について空気伝播は再評価される必要がある。追加的な感染予防法が空気伝播(短・長距離とも)を和らげるために実行されなければならない。換気、気流、空気ろ過、UV消毒、マスク適合への特別な関心を持って。これらの介入は現在のパンデミックを終わらせ、未来のアウトブレイクを防止するために極めて重要なツールである。

airborne trasmission

呼吸器ウイルスに関与するフェイズ
ウイルスを含むエアロゾル(<100µm)はまず感染者個人の呼気活動によって産生される。呼気活動を通じてエアロゾルは排気され、環境中を移動する。エアロゾルが感染性を維持している場合、それらは潜在的な宿主によって吸入され、新たな感染を引き起こす。飛沫(>100µm)とは反対に、エアロゾルは空中に何時間も残存し、エアロゾルを排気した感染者個人から1~2m以上移動する。そして短・長期において新たな感染を引き起こす。